なぜ法律が必要なのか？

近年の異常気象による猛暑は、人間だけでなく動物たちにとっても深刻な問題となっている。
しかし、日本では動物の暑熱ストレスに関する明確な法的基準が存在しない。
その結果、動物園や動物展示施設・畜産業・乗馬施設など、さまざまな場面で動物が高温環境に晒され、熱中症や脱水症状による健康被害を受けているケースが後を絶たない。

例えば、

• 動物園や動物展示施設の一部では、夏の屋外展示において適切な冷却設備が整っていない。
• 家畜産業では、冷房設備が不十分な環境で飼育される牛や豚が多く、熱ストレスによる生産性低下が問題になっている。
• 乗馬施設では、猛暑日でも適切な暑熱管理が行われないまま馬が運動を続けることがある。

この状況を改善するためには、動物の暑熱環境管理に関する法整備を進め、違反時の罰則を設けることが必要だ。

1. 既存の動物保護法とその課題

現在、日本の動物福祉に関する主要な法律は「動物の愛護及び管理に関する法律（動物愛護管理法）」である。
この法律では、動物の虐待防止や適正な飼育管理の推進が規定されているが、暑熱ストレスに関する具体的な規定はほぼ存在しない。

現行法の問題点

1. 「努力義務」に留まっている

   • 現在の動物愛護管理法では、「適切な飼養管理が求められる」とされているが、具体的な温度基準や管理方法は示されていない。
   • そのため、動物園や動物展示施設・家畜業者によって対応の格差が生じ、暑熱ストレス対策を軽視する事業者が出てしまう。

2. 罰則がないため、改善が進まない

   • 例えば、冷房設備がない屋内で長時間管理される家畜がいたとしても、法律上の罰則がないため指導や改善が進みにくい。
   • 実際、欧米諸国では**「動物の健康を著しく損なう環境」に対して罰則があるのに対し、日本では指導にとどまることが多い**。

2. 暑熱環境管理を強化するための法整備の方向性

動物の健康と福祉を守るためには、以下のような法整備が必要である。

✅ ① 暑熱環境管理基準の法制化

動物種ごとに適切な温度管理基準を設定し、それを法的に義務化する。
例えば、

• 動物園や動物展示施設の展示動物に対して「最高気温35℃以上の日には適切な冷却設備を必須とする」規定を設ける。
• 家畜産業では「30℃を超える環境では冷房設備または換気システムを設置することを義務化」する。
• 乗馬施設では「気温が35℃以上の場合、運動を制限する」などのルールを導入する。

こうした具体的な数値基準を動物愛護管理法に盛り込むことが重要である。

✅ ② 暑熱環境管理の義務化と監視強化

法律で定めるだけでなく、適切な管理が行われているかを監視するシステムの強化も必要だ。
具体的には、

• 動物園や動物展示施設、畜産業者に対する定期的な監査を義務化し、基準を満たしていない場合は指導や改善命令を出す仕組みを構築する。
• IoTやAIを活用し、動物の体温や周囲の温度をリアルタイムで監視できるシステムを導入し、異常が発生した場合は警告が出るようにする。
• 暑熱環境基準に違反した場合の罰則を強化し、改善しない事業者には営業停止処分や罰金を科す規定を追加する。

✅ ③ 事業者への助成金制度の導入

暑熱環境対策を進めるためには、事業者が適切な設備を導入しやすい環境を整えることも重要である。
例えば、

• 畜産業者が冷却設備（エアコン・ミストシャワーなど）を導入する際に補助金を支給する。
• 動物園や動物展示施設、乗馬施設が日陰を確保するための施設改修を行う際に支援する制度を設ける。

こうした支援策を併用することで、動物福祉と経済的負担のバランスを取ることができる。

3. 欧米の動向と日本の課題

欧米諸国の暑熱ストレス対策

欧米では、すでに動物の暑熱ストレスに関する厳格な規定が設けられている。
例えば、

• ドイツ：「30℃を超える場合、屋外展示は禁止」
• アメリカ：「動物の体温が上昇するリスクがある場合、冷却措置を行うことを義務化」
• フランス：「家畜の暑熱環境管理を厳格に規定し、違反者には罰則を適用」

一方、日本ではこうした明確な基準がないため、動物たちが不適切な暑熱環境で管理されるリスクが高い。
そのため、日本も欧米の事例を参考にしながら、法整備を進める必要がある。

まとめ

✅ 動物愛護管理法には、暑熱ストレスに関する具体的な基準がないため、法改正が必要
✅ 動物種ごとに暑熱環境管理基準を定め、それを義務化するべき
✅ 監視システムの導入と違反時の罰則強化を進める
✅ 事業者が冷却設備を導入しやすいように助成金制度を設ける
✅ 欧米の基準を参考にしながら、日本独自のルールを策定することが急務