動物行動学の専門家として伝えたいこと

本記事の筆者は、動物プロダクションを主宰し、テレビ・CM・映画に登場する動物たちの管理やしつけに携わる現役の動物行動学の専門家です。動物たちの習性・心理・環境への適応力について豊富な知見を持ち、現場で培った経験をもとに、人と動物が無用なトラブルを避けて共存するための方法を日々模索しています。

カラスは私たちの想像以上に賢く、また都市生活に適応しようと進化している存在です。ただ単に“迷惑な鳥”として排除するのではなく、彼らの行動の背景にある“理由”を理解しながら、効果的かつ共感的な対策を講じることが、長期的な被害軽減に繋がります。

また、筆者自身も堺市近郊で飼育施設を運営しており、地域住民との共生や自然との付き合いの中で、カラスをはじめとした野生動物との関わりを実践的に経験しています。その視点から、現場で役立つリアルなアドバイスをお届けします。

堺市で深刻化するカラス被害｜あなたのご近所にも迫っている！

「今朝、ごみ収集所がひどいことに…」「黒い鳥が威嚇してきて怖い」
そんな声が堺市内でも聞かれるようになってきました。

カラスは非常に賢く、学習能力が高いため、一度ごみのありかを見つけると繰り返し訪れる傾向があります。特に、住宅街やマンション周辺では被害が目立ち、ごみの飛散だけでなく、巣作りによる騒音・威嚇行動といった被害も報告されています。

動物行動学の観点から言えば、カラスの行動には明確な“理由”があります。たとえば、「エサがある」「安全に巣が作れる」「人があまり近づかない」などの環境が揃うと、彼らは迷わずその場所に定着します。だからこそ、“人側が変わる”という姿勢も大切です。

また、都市部に住むカラスは、野生の仲間たちとは異なる“人間の生活リズム”を学習しています。たとえば、「月曜の朝は生ごみが多い」「この家は決まった時間にごみを出す」など、パターン化された行動を正確に把握して行動しています。これは動物としては極めて高度な“社会的学習”の一種です。

カラスによる主な被害5つ｜ごみ荒らしだけじゃない！

1. ごみ袋を突いて食べ物を漁る（ごみ荒らし）

2. 春先の巣作りによる建物や電柱の被害

3. 繁殖期（4〜7月）の人への威嚇・攻撃

4. 早朝や夜間の鳴き声による騒音問題

5. フン害による洗濯物や車への被害

特に繁殖期には、巣やヒナを守るために人に対して威嚇行動を取ることがあります。これは“攻撃”というよりは“防衛”であり、動物として当然の反応です。こちらが驚いたり過剰反応すると、余計に刺激を与えてしまいます。

行動学的には、こうした反応を“防衛的接近行動”と呼びます。つまり「追い払いたい」ではなく「守りたい」が動機なのです。この事実を知っているだけでも、過剰な恐怖や誤解を防ぎ、冷静な対応につながります。

また、カラスの鳴き声にも“意味”があります。短く高い声は警戒、低く長い声は仲間への呼びかけなど、場面によって異なる“合図”を使い分けています。無意味にうるさいわけではなく、彼らなりの情報伝達の手段として、私たちの生活の中に“共鳴”しているともいえます。